2012年10月11日木曜日

2012年秋の調査計画


2012年秋の調査計画
みなさまへ---伏見です。


今春のヒマラヤ調査の結果は先月末の雪氷学会で報告しました(添付資料1)が、今月から来月にかけて、ネパール・ヒマラヤ中央部のマナスル峰南西にあるツラギ氷河・湖の5回目の調査に出かけます(添付資料2)。



(今回の調査のねらい)
これまでのネパール・ヒマラヤの氷河湖決壊洪水(GLOF)の調査から、決壊した氷河湖はいずれも小規模なもので、氷河湖をせき止めている堆積物(モレーン)中の化石氷が溶けたりすれば、古くなったロックフィル・ダムのように構造が弱くなりますので、小規模な氷河のモレーン構造の脆弱性が決壊の要因になり、GLOFを引き起こしたと考えています(資料3)。一方、モレーン強度の強い大規模氷河湖の場合は、直下型の大規模地震でもない限り、モレーンは安定しているとともに、温暖化の進行による融雪・融氷水流入の増加がすすむなかで、結果として引き起こされる氷河湖の水位上昇に対して、(あたかも自律的に)氷河湖の流出口が水量増加で侵食され、湖面水位を低下させる現象がツラギ氷河湖で観察されている(添付資料3・4)ので、大規模氷河湖のGLOFリスクへの(自律的な)対応機構の仮説を検証したいと考えている。もし、この仮説が証明できれば、ツラギ氷河湖自体が、GLOF災害の発生リスクを高める水位上昇への事前防止機能を発揮しているものと解釈できないだろうか。もし、その解釈が妥当なら、GLOF対策とはいえ、すでに行われてきている大規模土木工事は慎重にすべきだと考える。



今回のネパール調査も、フライシートの屋根掛け小屋でポーターとともに寝み、ポスト・モンスーンのヒマラヤの星空のもと、森林地帯のツラギ氷河湖調査基地では盛大な焚き火を楽しんでこようと思っています。
それでは、無事に戻りましたら、再びご報告させていただきます。


PS1
ツラギ氷河湖調査のかたわら、ポカラの国際山岳博物館の展示更新とネパール研究者などとの情報交換も行います。また帰路、インドネシアのトバ湖とミャンマーのヤンゴンを巡検します。
PS
今回もエアー・アジア航空の格安切符を利用しクアランプール経由でライト・エクスペディションを目指します。ちなみに、切符代は関西空港・クアランプール・カトマンズ往復が48550円、帰路巡検のクアランプール・メダン往復が6434円、クアランプール・ヤンゴン往復が10912円です。
PS
“氷河へのお誘い”と題するブログ<http://hyougaosasoi.blogspot.jp/>を始めました。このブログは、立山カルデラ砂防博物館の干場悟氏に立ち上げていただいたものです。なお、そのリンクにある「ヒマラヤ画像集 ピカサウェブアルバム」の写真データベースのほうが、以前お知らせしたアドレスのものよりも画像の処理速度が速いので、あわせてご覧ください。

添付資料1

本ブログにある「2012年雪氷学会発表原稿」を参照してください。

添付資料2

旅行日程20121015日~1126日)
目的:ネパールヒマラヤ中央部マナスル峰南西のツラギ氷河湖の5回目の調査をするとともに、国際山岳博物館の展示更新およびポカラとカトマンズの研究者との情報交換を行う。また帰路、インドネシアのトバ湖とミャンマーのヤンゴンを巡検する。

1015日 大阪関空(1655AirAsia D7535→クアランプール(2240
1016日 クアランプール(11:45)AirAsia D7192→カトマンズ(14:00)
1016日~1019日 カトマンズ(ハクパさん*1の家滞在、研究者との情報交換)
1019日 カトマンズ (バス)→ポカラ
1019日~1024日 ポカラ(ドラゴン・ホテル*2に滞在し、国際山岳博物館*3での展示更新)
1024日~1108日 ツラギ氷河湖調査(ラムさん*4とマナスル南西ダナ・コーラ上流踏査)
1108日~1112日 ポカラ(ドラゴン・ホテル*2滞在と研究者との情報交換)
1112日 ポカラ(バス)→カトマンズ
1112日~1115日 カトマンズ(ハクパさん*1の家滞在、研究者との情報交換)
1115日 カトマンズ(15:30) AirAsia D7193→クアランプール(22:30)
1116日 クアランプール(0740) AirAsia AK1350→メダン(07:35)
1116日~1120日 トバ湖滞在
11月20日 メダン(21:20) AirAsia AK1357→クアランプール(23:20)
11月21日 クアランプール(15:40) AirAsia AK1420→ヤンゴン(16:45)
1121日~1124日 ヤンゴン(ラングーン)滞在
1124日 ヤンゴン(17:15) AirAsia AK1421→クアランプール(21:30)
1124日~1126日 クアランプール滞在
1126日 クアランプール(0750) AirAsia D7532→大阪関空(1555
  
連絡情報
*1 ハクパさん 自宅 +977-1-4017147 携帯 +977-9851024235
*2 ドラゴン・ホテル +977-61-460391
*3  国際山岳博物館 +977-61-539343
*4 ラムさん 携帯 +977-9846280002
その他関係者
宮原さん 自宅 +977-1-5526821

添付資料3

イムジャ氷河湖関連報告(2009JICA報告)
4月下旬から5月上旬にかけて長野県環境トレッキング隊に同行し、氷河湖の決壊による洪水災害(GLOF)が懸念されているクンブ地域のイムジャ氷河湖へ行ってきました。私は7年ぶりのイムジャ氷河湖でしたが、氷河末端が崩壊するカービングで氷山が氷河湖にたくさん浮かんでいるさまは以前には見られなかったもので、活発な氷河末端の後退、つまり氷河湖の拡大を示していました。ただ、イムジャ氷河湖の拡大がGLOFを引き起こすかどうかは検討を要すると思われます。
私はクンブ地域でGLOFを引き起こしたイムジャ・コーラの1977年のミンボー(GLOF直後:文献)、ボテ・コシの1985年のディグツォ(GLOF後)またヒンク・コーラの1999年のサボイ(GLOF前)の氷河湖をせき止めているモレーン構造を見てきましたが、いずれも幅が数十メートルと狭いもので、モレーン中の化石氷が溶けたりすれば、古くなったロックフィル・ダムのように構造が弱くなりますので、幅の狭いモレーン構造が決壊の要因になり、GLOFを引き起こしたと考えています。ところが、イムジャ氷河湖の場合は、前述のGLOFを引き起こした各氷河湖とは異なり、エンド(末端)モレーンもサイド(側)モレーンも幅が数百メートルに達しています(添付写真:イムジャ氷河湖2009参照)ので、モレーン中の化石氷が部分的に溶けたとしても十分に強度を保つことができると思われました。

また、イムジャ氷河湖のような幅の広いエンド・モレーンを持ちながらGLOFを引き起こした例として、1994年のブータンのルナナ地域のルゲ氷河湖がありますが、決壊箇所はエンド・モレーンではなく、エンド・モレーンに隣接する幅の狭い左岸のサイド・モレーンでした。従って、巨大地震にでも見舞われない限り、かつディグツォのように氷河湖上流の岸壁からの落石が湖面を直撃するような地形にはなっていませんので、イムジャ氷河湖の場合は当面GLOFが発生する可能性は少ない、と考えています。
ところが、イムジャ氷河湖近くのディンボチェ村の住民代表が私たちのところに来て、「去年は氷河湖調査隊が7隊きた。調査隊は危険だとは言うが、何が、どのように危険なのかは言ってくれない。危険という言葉が独り歩きしているので、学校も病院も発電所も作ることができないで困っている。もう、調査隊はたくさんだ。今こそ、対策を考えてほしい。」と、危機感を真剣に訴えるのだった。
(例えば、K大学の早期警戒システムの設置などは余計に危機感をあおっているように思われる。)

危機感を訴えているクンブの住民たちは、実際にはイムジャ氷河湖をはじめ、GLOFを引き起こした上記の氷河湖を見ていない人が多く、自分で判断できないため、必要以上にこれまでの調査隊の「危険」情報に惑わされているのでははないか。そこで、住民と一緒に、イムジャ氷河湖と、これまでにGLOFを引き起こした氷河湖のモレーン構造の違いを現地で見ながら、GLOFの要因についての話をしていくことが、住民に安心感をもってもらうために必要だと考える。彼らの指摘する「対策」とは単にハードな土木工事だけではなく、ソフトな住民の心のケアーも必要な段階にきていることを強く感じました。

(文献)
NEPAL CASE STUDY: CATASTROPHIC FLOODS (1985 TECHNIQUES FOR PREDICTION OF RUNOFF FROM GLACIERIZED AREAS, INTERNATIONAL ASSOCIATION OF HYDROLOGICAL SCIENCES, 149, 125-130.


添付資料4

ネパール調査2011春報告(抜粋)

皆さま、地震・津波・原発災害の三重苦で日本は大変なことと思いますが、まずは、ポカラよりナマステ!
2011年春のネパール調査を行う前に下記「5)その他のその他」で述べる東南アジア旅行の番外編が加わりましたが、今回の調査目的は、1)ツラギ氷河湖の変動調査、2)巨大アンモナイト採集、3)ヒマラヤ写真データベースの整備でした。4月初めの暴風雪による積雪にくわえて、著しい倒木で道がふさがれ、今回のヒマラヤの氷河湖調査は古希の身にはかなりしんどいフィールドワークとなったが、まずはそれぞれの項目ごとに報告します。多少とも、皆さまの参考になれば幸いです。また今回も、前回報告したように、”Lte” Expedition (ポーター賃、晩酌つきのロッジ代、氷河湖BCではフライシートの屋根のもとポーターと一緒の生活、しめて1日2千ルピー)だった。今後とも体が続くかぎり Lite Expedition で、と思っています。

1)ツラギ氷河湖(43日~18日)

1-1.氷河末端位置の変動
ツラギ氷河中央部の末端位置は201010月とほぼ同じであったが、変化といえば、右岸と左岸側の氷河表面が崩落していることであった。したがって、2008年と2009年当時のような、湖面にたくさんの氷山が分布するような活発なカービングによる氷河末端後退・氷河湖拡大はみられなかった。つまり、経年的氷河(湖)変動が示すように、2010年以来は氷河湖および氷河の谷方向の長さには大きな変化は認められていないのである。その原因としては、氷河底が基盤または湖底に座礁し、活発なカービングが発生しないため、氷河の末端位置の変動が小さくなったものと解釈している。

1-2.水位低下
今回の調査期間が春であるため、秋の時点とは異なり、ツラギ氷河湖は結氷しており、氷河湖下流の末端モレーン近くでは水位上昇時に形成された湖の表面氷の一部が、湖水面より50cm高い湖岸汀線に連続的に残されていた。つまり、冬期間の結氷後に氷河湖水位が50cm低下したことを示している。また、長期間の水位低下傾向は、2009年のGPS踏査軌跡が2005年のグーグルアース画像の湖水面上に、湖岸線に並行して描かれていることからもうかがわれるが、直接的には、1996年のネパール水文気象局(DHM)隊などの氷河湖末端のおよび彼らのコンクリートで固定された水位計の位置を比較すると、1995年以来、約2mの水位低下が起こっていることは明瞭である。このことは、流出口の流出・侵食量の増大による低下で、(ツォーロルパなどのような水位低下対策の人工的な導水路を造らなくても)ツラギ氷河湖自体が湖面水位を低下させ、GLOFなどの災害発生リスクを高める水位上昇への事前防止機能を発揮しているものと解釈できないだろうか。もし、その解釈が妥当なら、GLOF対策とはいえ、人工的な大規模土木工事は慎重にすべきだと考える。ましてや、ツラギ氷河湖の場合は堰きとめている強固な末端モレーンが二重に取り囲んでいるので、クンブ地域のイムジャ氷河湖と同様に、直下型の巨大地震でもない限り、GLOFの発生はまずなかろうと思われるから、当面は、人工的な土木工事の必要性はないであろう。

1-3.透明度増大
今回の調査時ではツラギ氷河湖からの流出水の透明度がこれまでの秋の調査時に比べて、増大し、清流のような感じを抱いたのは意外であった。そのことは、ダナコーラ中流の橋付近から、それより上流の氷河湖の流出口まで、あたかもいわゆるグレーシャー・ミルクならぬ清流が観察されたのである。このことは、1996年のDHM隊などの氷河湖末端の前述の写真(8)との比較で明らかなように、それ以来の水位低下で形成された池(写真8のP2)の透明度が増大しているのは、グレイシャー・ミルクの氷河性粘土が流入を閉ざされた池で沈殿した(実際に池の底には粘土が堆積している)ことを示している。このように、氷河性粘土はグレイシャー・ミルクの流入や氷河湖内部の対流や風などによる撹拌作用がないがぎり、沈殿し、透明度が増大するのであろう。今回は冬から春にかけての寒期で、グレイシャー・ミルクの氷河融水の流入が少ないうえ、湖面が凍結していたため、風などによる撹拌作用が働かないため、氷河性粘土が沈殿し、氷河湖からの流出水の透明度が増大したものと解釈できる。
(以下、省略)

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