2013年11月25日月曜日

2013年秋ネパール調査 番外編 メコンのほとりにて

2013年秋ネパール調査 番外編 


メコンの畔にて(PHOTO エッセイ)


 2013年秋のヒマラヤ調査を終え、ラオスは中部のビエンチャンと北部のルアンプラバンで下記のことを考えながら、1週間ほどを過ごした。

 メコン川は泥の河である。おそらく泥の河だからこそ、人も生物も、何から何まで多様なのだと実感した。 だが、チベット高原東部のメコン川源流域では、氷河に削られた山並みの中をゆるやかな清流が流れる。


 チベット高原東南部の峡谷を流れるメコン川(瀾滄江)は、飛行機から見ても、泥の河ではない。

 ラオス北部のルアンプラバンで見たメコン川は、圧倒的な泥の河である。メコンの泥は、チベット高原をでてから、土壌浸食などで加えられたのではなかろうか。

比較的大きな運搬船も泥のメコンをひっきりなしに往来する、


泥の河で洗濯する女の右手が舞い、最後には着の身着のままでメコンつかり沐浴した。

男は泥の中で、投網で糧を得る。

泥のメコンで浮きがわりのペットボトルを利用し、さし網をしかける。

女は、男がとったいろいろな魚を朝市で売る。

とりたての魚をレモン(インドのニンブー)をたらして、いただく。

メコン河岸は水位上昇時の泥(汀線)が堆積し、そこで野菜をつくる。

ゆったりと流れるメコンだが、場所によっては岩礁があり、早瀬になる。

泥の河では貴重な建材用の砂利取り舟。


飛行機から見る残照のメコン。

メコンの落日とともに漁船が夕日に向かって漕ぎだした。


メコン落日。夕涼みがてら、雄大なメコンの夕日と対峙する。人の輪廻転生もまた、ガンジス世界と同様に、メコン世界でも泰然とながれる。

夕涼み客のくわわるメコン河沿いの賑やかなナイト・マーケット。

ラオスでは戦乱で数々のお寺が破壊された(下記参照)が、シーサケート寺院ではかなり保存状態が良く、頭部を欠いた仏もあるが、1万以上の仏像が安置されているという。

早朝暗いうちから熱心な信徒のもとに托鉢僧がおとずれる。


添付写真
1) チベット東部(メコン河源流)
2) チベット東南部(瀾滄江;メコン河中流)
3) フェリー・ボート(ルアンプラバン;メコン河下流)
4)  運搬船(ルアンプラバン;メコン河下流)
5)  洗濯する女性(ルアンプラバン;メコン河下流)
6)  投網する人(ルアンプラバン;メコン河下流)
7)  ペットボトルの浮きで刺し網漁(ルアンプラバン;メコン河下流)
8)  朝市の魚屋(ルアンプラバン;メコン河下流)
9)  魚料理(ルアンプラバン;メコン河下流)
10)  水位上昇時の砂泥の汀線(ルアンプラバン;メコン河下流)
11)  岩礁のある急流(ルアンプラバン;メコン河下流)
12)  砂利取り舟(ルアンプラバン;メコン河下流)
13)  残照のメコン(ルアンプラバン;メコン河下流)
14)   メコン河落日1(ビエンチャン;メコン河下流)
15)  メコン河落日2(ビエンチャン;メコン河下流)
16)  メコン河沿いのナイト・マーケット(ビエンチャン;メコン河下流)
17) シーサケート寺院(ビエンチャン;メコン河下流)
18) 托鉢僧(ルアンプラバン;メコン河下流)


記、

1) メコン河は中国チベットに源を発し、ビルマ、ラオス、タイ、カンボジア及びベトナムを貫流し、南シナ海に注ぐ全長4350km、流域面積795000平方キロの国際的な大河川である。

2) メコン河の年平均流出量は6000億立方メートルもあるが、ローカルな水運や河岸住民の生活用水以外はほとんど利用されていない。そこで、この莫大な水量を有効利用するために、エネルギー開発と環境保全の競合に関する現実的な課題を明らかにし、水資源開発と環境保全との共存をはかりながら、持続的なエネルギー開発の方向性を評価することが重要である。

3) メコン河上流部のチベット南東部では、豊富な水力に加えて、地熱・太陽熱利用などの可能性を秘めているが、自然災害が頻発する地域なので、そのための実態把握・評価が必要である。

4) メコン河下流部の東北部タイでは稲作面積がこの20年間で2倍にも拡大し、また戦乱の続いたラオス、カンボジア、ベトナムでは避難民たちが焼畑を広範囲に行ったため、結果的に森林破壊と農耕地土壌の疲弊をもたらすとともに、土壌侵食を引き起こす要因になっているので、水資源の適切な管理と生態系保全が強く求められる。

5) また、南シナ海の沿岸部では石油資源・領土の国際的な紛争にまで発展してきた地域で、将来の持続的エネルギー開発の観点から熱い視線が注がれている。同時に、その沿岸部を初めとした生態系の悪化が憂慮されている。

6) メコン河全域にわたって、環境保全と持続的開発手法を確立する研究が緊急に求められており、その研究成果は東南アジアをはじめとする各国への国際的な意義は大きい。

7) ベトナム・アメリカの国交回復やビルマの民主化などをはじめとして、メコン河流域の東南アジアが動きだした。長らく続いた戦乱とその後の後遺症から立ち直り、この動きは今後とも加速することだろう。

8) 21世紀初頭には、東南アジアの人口は世界の半分近くをも占める、との推計がある。エネルギー問題とともに環境問題がますますクローズアップされ、地球環境からみても看過できない難局を迎えることだろう。そのための対策の基礎として、環境保全とエネルギー開発の競合に関する実態把握・評価が必要である。

9) さらに地球温暖化などの、地球環境問題が上記難局に加わる。気温の上昇ばかりか、雨の降りかたも変わる。水資源の有効利用にとって、困難な局面を迎えることになる。

10) また、南極などの氷河が解けるとともに水温上昇で、海水面が上昇する。そこで、それらの国々の沿岸域や大河川河口域に洪水や海水浸入(河川水・地下水の塩水化)などの直接的な影響が出るため、水循環に関するモニタリング・システム体制が重要である。

11) 地球環境変動が進行するなかにあって、水循環が影響を与える流域の応答特性を評価し、エネルギー開発と環境保全の競合の実態を明らかにするとともに、環境変動の実態観測・環境影響評価システムを確立し、将来の持続的開発手法を構築することが求められている。

                                                                                                                 2013.11.25 (ビエンチャンにて)



2013年11月17日日曜日

東ネパール・クンブ地域の調査

2013年秋ネパール調査

東ネパール・クンブ地域の調査



みなさまへ

                                                            写真1 40年前のゴキョウ

東ネパール・クンブ地域の調査をおえ、昨日カトマンズにもどりました。10月中旬の大雪の影響もさることながら現地の社会環境の変化にも驚かされました。まずは冒頭の2枚のゴキョウの写真を見くらべてください(写真1と2)。40年前には何軒かの放牧小屋(カルカ)だけでしたが、現在では狭いところに10軒ほどの2・3階建てのロッジが雪の中で密集していました。ここはかつて18世紀の氷河拡大期後の溢流水がモレーンを浸食してできた地形です。

                                                             写真2  現在のゴキョウ

それにしても、大雪の影響は大きく、標高4400m以上の各ロッジはあたかも冬のスキー場のようなたたずまいをしていました。そのため、当初予定していた5300mのギャジョ氷河や5800mのアンブラプツァ峠を越えてのホング谷への踏査旅行は中止しました。というのは、イムジャ氷河湖調査の時に経験したように、50cm以上の雪道では、荷物を持ったポーターには踏査は不可能と思われたからです。そこで、調査の目的を次のように変更しました。クンブ地域では、これまでのところミンボー、ラグモチェ、ヒンク谷の小さな氷河湖の決壊洪水(GLOF)が発生していますが、比較的大きなイムジャ、クンブ、ゴジュンバ各氷河および氷河上の湖沼の1970年代からの変化をあきらかにすることにしました。調査はグーグルアース地図のGPS軌跡をほぼ反時計回りに踏査し(写真3)しました。
             写真3 調査地域(グーグルアースの地図にGPSの軌跡を描いた)

氷河上で比較的安定した池や湖ができるのは、上流部の現在流動している活動氷体より下流部分です。大きな氷河の末端部は18世紀の化石氷体であることが多く、そこには透明度の高い小さな湖沼が分布します。氷河上の湖沼の変動で問題となるのは、上流の活動氷体と下流の化石氷体の間の停滞氷体です。イムジャとゴジュンバ氷河ではこの部分に大規模な湖沼ができ、GLOFが発生するのではないか、と危惧されています。今回の調査では、その点にも注目しています。ただその前に、なぜクンブ氷河の停滞氷体には大規模な湖沼ができないのかについてふれておきます。冬のクンブ氷河末端では融氷水の溢流がないのにもかかわらず、末端基部のトゥクラではクンブ氷河からかなりの水量が流出しているのは、クンブ氷河底からの排水機構があり、そのことによってクンブ氷河の停滞氷体部には融氷水が貯まらないものと解釈しています。

                           写真4 イムジャ氷河湖

さて、まずはイムジャ氷河湖ですが、4年前に行った時にはかなり拡大しており、地元の方々は大いに心配をしていました(参考資料1)が、今回は水位低下で、氷河湖の規模が縮小していました
(写真4)。ところが地元のディンボチェ村で聞きますと、2つの見方があるのです。住民の大方は、イムジャ氷河湖は縮小しているというのですが、村の代表のBさんは「依然として大きい」というのです。前便でお知らせしたようにUNDPやアメリカ山岳会の支援で、人工的な排水路を作る土木工事がおこなわれることを、彼は期待しているようです。住民の一人であるA氏は「かつてはアイランド・ピークBCにあったアブレーション・バレーの湖も枯れたんだから、タンボチェ・ラマ(僧侶)の祈りで、イムジャ氷河湖もなくなるとよい」と語っていました。
水位低下による氷河湖の規模縮小は、中央ネパールのマナスル峰西のツラギ氷河湖でもみられており(参考資料2)、氷河末端の流出口の浸食のため、流出口の位置が低下し、湖面低下・氷河湖縮小化をおこしているのです。ツラギ氷河湖のように、融雪氷増大で水位上昇によるGLOGリスクを低減させるように働く氷河湖自体の自律的調節機構とも解釈できるのではないでしょうか。イムジャ氷河湖でも、クンブ地域西のツォーロルパ氷河湖同様な人工的な排水路を建設する計画が進んでいますが、氷河湖自体の自律的な調節機構が有効に働くならば、やみくもに人工的に開発工事を誘致・推進するのは、自然破壊以外の何物でもないでしょう。氷河は自然の一部であり、その自然の巧みである自律的な調節機構に注目したい、と思います。


                            写真5 クンブ氷河

イムジャ・クンブ・ゴジュンバ各氷河に共通しているのは停滞氷体の表面低下にくわえて、停滞氷体の上流への拡大(氷河の活動末端の後退)で、クンブ氷河では40年前にくらべて、活動末端が約2kmも後退しています(写真5)。

                          写真6 ゴジュンバ氷河

最後にゴジュンバ氷河です。停滞氷河部分のゴキョウとタンナグ間の通路が変わるほど、氷河湖が拡大しています(写真6)が、右岸側の流出口を見るかぎり、末端モレーンの規模は雄大であるので、モレーン破壊によるGLOF発生のリスクは少ないと思われます。今回の踏査の結果からは、ゴジュンバ氷湖もツラギ氷河やイムジャ氷河と同様に、流出口の浸食による湖面低下・氷河湖縮小に向かうのではないでしょうか。

参考資料
1) イムジャ氷河湖関連報告 http://glacierworld.weebly.com/ ヒマラヤ>ECO TOUR>4.Imja Glacier Lake
2) なぜ、ネパールの大規模氷河湖は決壊しないのか  http://hyougaosasoi.blogspot.jp/
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PS
今回の24日間のクンブ地域の踏査旅行で4千枚を超える写真を撮りました。それらの写真解析を進めながら、10月中旬の大雪による雪崩やかつてのハージュン基地の現況など、また明後日からのラオスの旅の印象も、折を新ためてまとめたいと考えています。