2017年ネパール通信19 余話6
春の花、いろいろ
1)はじめに
今春の写真データ・ベース(2752枚)*にはいろいろなネパールの表情が写されていますので、ヒマラヤ地域の環境課題に関連する興味あるテーマを選び、これまでに「ヒマラヤ展望率」、「何を食べていたのか-ネパール効果-?」、「カトマンズ・ポカラ間の河川環境の変化」について報告してきました。今回のテーマは「春の花、いろいろ」で、写真データ・ベースの中から150枚の花に関する写真をピック・アップし、ネパールの各地域に見られる春の花を紹介するとともに、ヒマラヤの高山植物の絶滅リスクに関与する山火事や違法採集による外国での売買、また放牧活動による高山地帯への人為的植物の侵入の影響について考えてみました。なお、「春の花、いろいろ」の写真表示(写真5-16)は撮影順ですので、特定の花の記述にあたっては写真番号の引用が前後することもありますのでご承知おきください。
さらに、今後はネパール・ヒマラヤの「トイレ・ゴミ事情」や「交通事情」、「物価の変化」などのテーマについても取り上げてみたいと思っています。
*2017Nepal
http://glacierworld.net/gallery/Nepal_B/2017Nepal/index.html
写真1 ポカラの火炎樹
ポカラの初夏、緋色の火炎樹(写真1)が満開の季節を迎え、女性たちは緋色などの赤色のサリーを身にまとい、通りを闊歩します。ポカラの代表的な木の花を朱色の火炎樹とすると、カトマンズは紫色のジャカランダ(写真2)でしょう。火炎樹はマレーシアやベトナムなどの赤道に近い熱帯地域の花で、ポカラはカトマンズよりも600mほども低く、より暖かく、熱帯的な気候なので、火炎樹に適しているようです。カトマンズの女性たちがジャカランダの紫色を好むのに対して、ポカラでは、原色に近い熱帯的な赤系統の色が好まれるのは、女性たちが着るサリーの色にも気候・風土が反映しているのでしょうか。
写真2 カトマンズのジャカランダ
写真3 ランタンのシャクナゲ
ヒマラヤ山間部の春の花の代表といえば、国花にもなっているシャクナゲ(写真3、写真9の#034-037、040-042、045-写真10の#051、053-059、写真11の#062-068)です。シャクナゲは標高が高くなるにつれて、赤からピンクや白に変化するようです。ネパールのシャクナゲは、幹の太さが1mほどもあり、高さが10mを超えるものが沢山ありますので、正に国花にふさわしい威風堂々の花です。一方、高くなるに連れて、小さくなるなるのがサクラソウです。富士山よりも高いランタン谷のキャンジン(3897m)付近で見られるサクラソウの花は1cmほどの大きさで、茎がほとんどなく、花が地面から直接咲いているように見えます(写真4、写真10の#052)。低地のサクラソウは茎が10cmほどもある(写真9の#043)のですが、茎のないのはヒマラヤ高地の厳しい環境への適応型なのでしょう。
写真4 ランタン谷のサクラソウ(下の杖の黒テープ間隔は10cmです)
2)春の花、いろいろ
写真5 春の花、いろいろ 1 ; 撮影(2017/03/11 at 11:10)-(2017/03/19 at 13:26)
カトマンズでは紫色を使った広告をよく見かけます(写真5の#001)。ネパールの大企業である通信会社の看板が紫色に統一されているのもそうですし、春に咲くジャカランダの紫の影響があるのかも知れません。さて、カトマンズ大学のキャンパスも春爛漫で、杉並木の大学本部前にはサクラが満開を迎え(写真5の#002-009、写真6の#022-024,027)、名も知らぬ高木(写真5の#010-013)や桃など(写真5の#014-015、写真6の#016)が花を咲かせます。また、春はタンポポ(写真6の#017-021)やシャガ(写真6の#025-026)の季節でもあり、キャンパスを色とりどりに飾ってくれました。
写真6 春の花、いろいろ 2 ; 撮影(2017/03/19 at 13:27)-(2017/03/28 at 07:54)
写真7 カトマンズ大学キャンパスの梅や桃を食べる子供たち(2017年5月29日、16:09撮影)
桃の開花(2017年3月19日)から2ヶ月ほどたった5月末には実が熟したので、子供たちがねらっていて、得意の木登りをしながら、 取り合っていました(写真7)。また、キャンパスには桑の木が数本あり、4月には実をつけますので、学生たちが口を紫色に染めて、食べていました。
写真8 カトマンズ大学の桑の実を食べる学生たち(2017年4月14日、12:28撮影)
写真9 春の花、いろいろ 3 ; 撮影(2017/03/28 at 07:55)-(2017/03/30 at 06:28)
3月末から4月初めにかけてはランタン谷の調査をした時に撮影した低地から高地にかけてのいろいろな花(写真6の029-写真11の075)を示します。ランタン谷の入り口であるシャプルーの名も知らぬ高木の花(写真8の#029-写真9の#031)はポカラでも見た亜熱帯の花です。その高木の10cm以上もある大きな赤い花が音を立てて地面に落ちてくると、子供たちがその大きな花を手にかざして遊んでいました(写真11の#069-070)。ランタン谷を登って行くと、高くなるにつれて、シャクナゲの色が変化します。つまり、低地の濃い紅色のシャクナゲ(写真6の#028、写真9の#032)が、次から次へと桃色から白色のシャクナゲ(写真9の#033-042と写真10の#046-051,053-059)に変わっていきます。まるで、シャクナゲの遷移現象を見る思いです。 香りのないシャクナゲに対して、芳しい香りを放つ高さ1mを越える大型のチンチョーゲ(写真9の#038-039と写真10の#060、写真11の#061)もシャクナゲ林の林床に現れてきます。
写真10 春の花、いろいろ 4 ; 撮影(2017/03/30 at 06:28)-(2017/04/02 at 14:14)
写真11 春の花、いろいろ 5 ; 撮影(2017/04/02 at 14:14)-(2017/04/05 at 07:32)
ランタン谷の調査の最後に低所で見られる濃い紅色のシャクナゲ(写真11の#062-064、067-068) とともに、ところどころ白色がかったシャクナゲを見ながらランタン谷入り口のシャプルーに着き、高木の赤い大きな花を手に持って遊ぶ子供に出会イました(写真069-070)。ランタン谷最後の日は入山時にも泊まったブッダ・ゲスト・ハウスの芝生の庭に咲く赤い花のボトル・ブラッシュ(写真11の#071-074)の木陰で20年ぶりのランタン谷調査の余韻にひたりました。翌日は早朝のカトマンズ行きのバスに乗り、ドゥンチェ手前のバス道の崖に咲き乱れる白いランの花を見ながら、トリスリ川沿いに下りました。4月初めにランタン谷からカトマンズにもどると、松並木に垂れ下がっているノウゼンカズラ(写真12の#076)が、またカトマンズ大学ではヤエザクラ(写真12の#077-079、084-085)が満開でした。大学周辺の田畑には名も知らぬレンゲのような草花(写真12の#080-083)がピンクの小さな花をつけているとともに、青紫のアヤメ(写真12の#088-090)やアザミ(写真13の#091-094)が咲いているのです。また、花ではありませんが、アカメガシワのような赤い花のような木の葉も春を告げているようでした(写真12の#086,写真13の#095-096,写真16の#140-141)。
写真12 春の花、いろいろ 6 ; 撮影(2017/04/08 at 06:18)-(2017/04/20 at 09:35)
写真13 春の花、いろいろ 7 ; 撮影(2017/04/20 at 09:36)-(2017/05/07 at 07:04)
4月末から5月初めはポカラの国際山岳博物館で展示更新をするために、カトマンズから往復のバス旅をしましたので、その途中で見られたいろいろの花(写真13の#097-写真15の#123)を紹介します。カトマンズでは象徴的な春の花であるジャカランダが満開でした(写真13の#097-098,写真14の#117-写真15の#123)。カトマンズ・ポカラ間の中間地点、トリスリ川とマルシャンディ川が合流するムグリン周辺には火炎樹の朱色の花が(写真13の#099-102,写真14の#108-113)、カトマンズ・ポカラ間のバスを運行しているグリーン・ライン会社のレストランには前述の火炎樹の他にもランの花(写真14の#114-116)が咲いていました。ポカラを代表する春の花である火炎樹はまだこれからの感じでしたが、青紫のアサガオや朱色の草花、桃色のオシロイバナのような花も春の季節を迎えていました(写真13の#103-写真14の#107)。
写真14 春の花、いろいろ 8 ; 撮影(2017/05/07 at 07:04)-(2017/05/08 at 10:25)
写真15 春の花、いろいろ 9 ; 撮影(2017/05/08 at 10:26)-(2017/05/26 at 10:50)
カトマンズ大学周辺の並木では、木の花か葉か一見不確かでしたが、枝枯れではなく、一部分が黄色に変わっていました(写真15の#124-126)。カトマンズ大学のキャンパスは花盛りで、淡いピンクから濃いピンクのクロッカスのような花(写真15の#127-128,132-133)がそこかしこに、宿舎近くには白系統のアジサイ (写真15の#129-131,134-写真16の136)が雨期の近いのを知らせるように咲きはじめました。大学キャンパスの高木の白い花としては、茶花のような花(写真16の#137-138,144-145)とタイサンボク(写真16の#139)が咲き、大学キャンパスの垣根の花としては、ジャスミンのような芳しい香りを放つ白い花(写真16の#142-143)や色とりどりの小さな花が密集する名も知らぬ花(写真16の#146-147)がありました。最後になりますが、カトマンズでは盛りを過ぎたジャカランダ(写真16の#148-150)が夏の入道雲のもとで紫の花を咲かせていて、大学キャンパスでも季節が春から夏へと移り変わっていることを告げていました。
写真16 春の花、いろいろ 10 ; 撮影(2017/05/26 at 10:51)-(2017/05/31 at 11:34)
3)高山植物の絶滅リスクへの人為的影響
写真17 ネパール中部ツラギ氷河湖周辺のエーデルバイス群落
ネパール中部でもツラギ氷河湖周辺などには象徴的な高山植物であるエーデルバイス群落などが見られます(写真17)。しかしながら、その地域には人為的な大規模山火事(写真18)が蔓延しているのです。このため、貴重な高山植物なども山火事で絶滅するリスクが高いのではないか、と心配です。ネパール中部ツラギ氷河湖周辺のエーデルバイス群落周辺の森林の一部はすでに森林火災の影響を受けており(写真17の右上や写真18)、村から離れた森林は放牧地の拡大などのために、ブータンやモンゴル同様、人為的森林火災が頻発しています。モンゴルでは林床にブルーベリーの灌木が生えており、根が深くまで達しているので、山火事で地表面が熱せられても、翌年は山火事の灰を肥料にして成長し、多くの実を結ぶので、放牧地の拡大の目的に加えて、現金収入用のブルーベリーなどの果実の収穫のために人為的に山火事を起こすのだそうです。しかし、地表面近くに生える高山植物は根が浅いので、山火事の影響は致命的な結果をもたらすのではないでしょうか。
写真18 ネパール中部ツラギ氷河湖周辺の山火事景観
写真19 ネパール中部マナスル峰南西のツラギ氷河湖周辺のリンドウ(Gentiana)群落
また、ネパール中部のツラギ氷河湖周辺などにも、ヒマラヤの代表的な高山植物であるリンドウが分布しています(写真19)が、違法採集されたリンドウ(Gentiana)が下記のBBCの記事のようにイギリスで販売されている(写真20)、とのことです。このような人為的破壊が拡大すれば、このこともまた、次なる高山植物の絶滅リスクになる可能性があります。
記
Illegally collected Himalayan plant seeds sold in UK
By Navin Singh Khadka Environment reporter, BBC World Service
http://www.bbc.com/news/science-environment-35699297?error_code=4201&error_message=User+canceled+the+Dialog+flow
Image caption; Gentiana is a favourite among collectors
Seeds of exotic plants illegally collected in the Himalayas are being sold in the UK, the BBC has found.National Himalayan authorities say no permission was obtained to gather and export the plant material.The activity harms the environment and deprives local people of benefits from the trade of plants, they add.Some of the suppliers told the BBC that locals had actually helped them collect the flowers; others said they did not know their activities were illegal.
(以下省略)
写真20 違法採集されたヒマラヤのリンドウがイギリスで販売されている記事(BBC;2 March 2016)
写真21 アンナプルナBC周辺の高山植物群落
次なる第3の高山植物の消滅リスクは人為的植物の侵入です。 モンスーンの雨期のヒマラヤの草原地帯は高山植物の宝庫です(写真21)が、夏の雨期は高所の放牧期間になっているため、多くの家畜と人が高山植物地帯に滞在します。すると、低所の村などに生えている植物の種が家畜や人とともに高山植物地帯に運ばれてきます。そのような人為的植物の代表がスイバ(イタドリ、スカンポの仲間)やオオバコ*で、ネパール中部のアンナプルナ・ベース・キャンプ周辺では、もともとの高山植物が駆逐され、人為的なスイバ群落に占領されています(写真22)。このようにして引き起こされる人為的影響も、ヒマラヤの高山植物の絶滅リスクになっています。
*ネパール2014春調査報告4
4.最後に
http://glacierworld.net/travel/nepal-travel/nepal2014/nepal2014_04tulagi/
「さてもうひとつ最後にあたり環境問題としてつけ加えたいのは、オオバコなどの低地の雑草の高地への移動問題である。アル・バリや、ダナ・コーラ橋とダラムサーラへの途中の崖小屋周辺には米科の雑草やスイバが広範囲に分布を広げて、もともとの植生を駆逐しているのである。このことは、森林火災とともに、ヒマラヤの貴重な自然保護の課題になることであろう。」
写真22 アンナプルナBC周辺の放牧小屋と人為的植物景観
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