ネパール・ヒマラヤの環境変化-森林保全に関連して-
みなさまへ
長野県の駒ヶ根市にあるJICA研修センターで国際環境NGOヒマラヤ保全協会主催の「ネパールへの国際協力を知ろう!」の集会が7月25日~26日に行われ、ヒマラヤ保全協会で仕事をされている戸田裕子さんから誘っていただき講師として呼ばれましたので、「ネパール・ヒマラヤの環境変化-森林保全に関連して-」(内容は下記の要旨をご覧ください)のテーマで話題提供することになりました。
駒ヶ根のJICA研修センターは2008年6月から2年間のポカラ国際山岳博物館学芸員のボランティア―活動にあたり、2ケ月間の研修を受けたところで、英語やネパール語の先生たちとともに、市役所の方々にもお世話になりましたので、久しぶりに駒ヶ根の方々との再会も楽しみにしているところです。
(要旨)
ネパール・ヒマラヤの環境変化-森林保全に関連して-
ネパールへの国際協力を知ろう!(2014.07.25)国際環境NGO ヒマラヤ保全協会駒ヶ根集会資料
伏見碩二(滋賀県立大学名誉教授)
1) 問題点
森林破壊によって、土地の保水力が失われる結果、土壌栄養分の流亡や、崖崩れ・洪水を引き起こすとともに、水質・大気浄化能力を低下させています。さらに、それにともなう二酸化炭素の固定機能の低下や、世界的な森林火災の拡大は二酸化炭素を発生しますので、地球温暖化をさらに促進することが危惧されます。生態学的な観点からは、陸上生態系の基盤となる森林を失うことで、森林生物の住みかを奪うことにくわえて、生態系自体の安定性を低下させることも重要な問題です。
私たち日本人は、古くから森林の恵みを受けて森林とともに暮らしてきましたが、最近では、「植えて、育てて、収穫して、上手に使って、また植える」という森づくりの重要な循環がなくなりましたので、森林の豊かな恵みを受けられなくなっていますが、ネパール・ヒマラヤや広範な東アジアでも共通の課題が発生しています。そこで、これまでの現地調査にもとづき、ネパール・ヒマラヤの環境変化を中心に、特に森林保全に関連した問題点について報告します。
2) 中央ネパール・ヒマラヤの森林環境の現状
ネパール・ヒマラヤの南北方向の谷地形沿いには夏のモンスーン雨期の水蒸気が大量に供給されますので、立派な原生林が発達しています。中央ネパールのマルシャンディ河中流域では、標高4000m付近まで針葉樹の巨木の森が分布し、人工的圧力の少ないブータンの森を彷彿とさせるほどの、ネパールでは貴重な原生林が見られます。しかし、その貴重な森林資源が山火事などの被害にさらされているのです。主な原因は放牧地や農地の拡大です。このような人為的森林破壊はネパールをはじめブータンでも、広くはモンゴルやシベリアなどの広範なアジアの環境課題であるとともに、地球温暖化阻止のための世界的な緊急課題にもなっています。
また、著しい森林破壊をともなうヒマラヤの峡谷沿いの道路開発によって、従来はポカラから3日かかった中央ネパールのマナスル峰(8163m)南西のツラギ氷河湖の調査基地まで、わずか1日で到達できるようになりましたが、便利になった半面、問題が発生しています。と言いますのは、乾期には道路周辺の浸食は目立ちませんが、夏のモンスーン雨期のマルシャンディ谷沿いの激しい雨に叩かれれば、いたるところで斜面の浸食がすすみ、中央ネパールのカリガンダき沿いの道路のように、毎年のように土石流などによって、道路が寸断されるとともに森林破壊がひきおこされる自然からのしっぺ返しがあることは確実です。このような大規模な道路開発や人為的森林火災などによって、ヒマラヤの貴重な森林などの自然環境は重大な危機を迎えているのが現状です。
3) まとめ
ネパール・ヒマラヤをはじめ世界の森林環境を保全していくためには、ただ伐採や破壊に反対するだけではなく、環境を保全しながら、森林資源を持続的に利用してゆくことも必要になることでしょう。また、森林保全は温暖化防止の取り組みへの一環ですので、地球温暖化防止は先進国の問題のみならず、開発途上国にとっても現実的な課題です。その意味で、「Act locally, think globally!」の観点で、国際環境NGO ヒマラヤ保全協会が長年行っているような、各国の土地利用の転換や伐採、火災によって森林が劣化している地域で植林を行い、森林を再生することは重要な緊急課題です。
参考資料
これまでのヒマラヤを中心にした調査結果は下記ホームページで公開していますので、ご覧ください。
1)時系列ブログ
http://hyougaosasoi.blogspot.jp
2)テーマ別ウェブサイト
http://glacierworld.weebly.com
3)ヒマラヤなどの写真データベース(10万点以上)
http://picasaweb.google.com/fushimih5写真説明
写真01 ネパール・ヒマラヤの環境変化ー森林保全に関連してー 森林火災の生々しい跡が見える(ナチェ)。
写真02 滋賀県鈴鹿山地の近代的な皆伐と伝統的な択伐(大君ケ畑)
写真03 伝統的ネパールの択伐と製材(パクディン)
写真05 立派に育つナムチェバザールの植林地
写真06 ホテル用の薪のため刈られる林(ダンプス)
写真07 建築材や薪のために刈られる雑木林(ガンドルック)
写真08 マナスル峰西面と豊かな針葉樹林帯(カルチェ)
写真09 マナスル峰西面の森林火災(カルチェ)
写真10 ツラギ氷河湖周辺の森林火災(ナチェ上流)
写真11 マルシャンディ河中流の道路開発と環境破壊
写真12 ブータンの豊かな森林(ガサ)
写真13 ブータンの森林火災(ロドゥフ)
写真14 モンゴル・ロシアの国境周辺の山火事
写真15 モンゴル・シベリアの山火事(飛行機から)
写真16 密猟と木の実収穫のための人為的山火事(モンゴル)
写真17 モンゴルの典型的土地利用形態
写真18 モンゴルの典型的土地利用形態と地温構造
写真19 水没する森林とモンゴルの人たちとの意見交換
写真20 中国・揚子江中流域の青銅器文化と環境破壊
写真21 弥生時代の製鉄による森林破壊と映画「もののけ姫」
写真22 ポカラ周辺の山火事 と大気汚染
写真23 ヒマラヤの大気汚染の原因
写真24 大気汚染の解決と富士山・マチャプチャリの展望(Yes, we can.!)
写真25 ヒマラヤの環境問題解決に向けての若い人たちへの期待
写真26 国際環境NGOヒマラヤ保全協会の100万本植樹達成
写真27 「Act locally, think globally.」(Thank you!)
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