2012年11月30日金曜日

「2012年秋ネパール調査」番外編


2012年秋ネパール調査」番外編(1) インドネシア

トバ湖のホテイアオイ


「昔トバ湖にホテイアオイが大繁茂し、魚の餌が育たないので漁師が何とかならないか、と相談を受けたのを思い出しました。その後どうなったか見てきてください。」と石本さんから言われていたので、今日はパングルラン周辺のホテイアオイの分布状況をバイクで見て回りました。

                     ホテイアオイのはえる湖岸で洗濯する女と水遊びする子供たち

ホテイアオイはパングルラン南西部の生活排水が入る閉鎖的な湖岸部分に主として分布しています。ただ、透明度は2mほどもあり、琵琶湖南湖より水はきれいで、子供たちは水遊び、女たちは洗濯をしています。魚もいますし、釣り人もたくさんいます。採集したホテイアオイが船に積んであるのも見ましたので、利用しているのかも。

                                              パングルラン北西部の広大なトバ湖

ただ、ホテイアオイの分布は、トバ湖全体を考えたら、局所的ですので、ネパール・ポカラのフェヴァ湖などに比べたら、今のところは、大きな問題にはならないのではないでしょうか。パングルラン北西部の広大なトバ湖では(例えば温泉地域の排水が入る部分)、子供や青年たちもが湖水で歯を磨き、口をゆすぎ、水浴しているのを見ると、話に聞く、琵琶湖の1950年代(高度成長期以前)の湖岸生活を見ているような感じです。
これらのことから、広大なトバ湖はまだまだ素晴らしい水質を保った貴重な財産である、言えるでしょう。財産ということに考えが及ぶと、ヒマラヤとの共通点がでてきます。ヒマラヤの神々の座、その麓の森林も、トバ湖同様に貴重な財産であり、自然(浄化)力の範囲内で利用している限り、財産は保たれるのです。

トバ湖のホテイアオイ(2)

前便で「ホテイアオイを利用しているのかも」と書きましたが、やはり、肥料として利用していることが分かりましたので報告します。

                    波止場でホテイアオイを天日干しにし、肥料を作っているところ

上記の写真は、パングルランの波止場でホテイアオイを天日干しにし、肥料を作っているところです。この肥料は、現地バタックス語でウンブール・ウンブールと言われ、現在のところ、住民が個人的に行っている小規模なものですが、地元の人は行政がかかわって大規模に行ってほしい、と述べていました。ポカラのルパ湖で行っているホテイアオイ問題解決のための住民・生活改善運動が、湖の規模こそ違うが、示唆に富むのではないか、と思いました。湖水中の栄養分を吸収して成長したホテイアオイを湖から除去すれば、当然、水質改善に寄与するとともに、さらに肥料として利用できるのですから、まさに一石二鳥です。それにしても、パングルランでも、ホテイアオイの肥料化を住民の発想で行っているのには感心しましたが、行政の方は、今のところ大きな問題とはとらえていないのかもしれません。

                                         生簀で養殖されたテラピア料理


パングルラン周辺にはたくさんの生簀があり、テラピアなどを養殖しており、相当な飼料をまいているはずですが、養殖による水質悪化(富栄養化)の問題も、また養殖業へのホテイアオイの影響も、単位湖水量当たりの人数が少ないので、今のところは出ていないそうです。パングルランの人口は3万人程度で、集水域のなかで人口の多いサモシール島全体でも約12万人、人口密度は84/km2ですので、滋賀県の人口140万人、人口密度人352/km2と比べると、大きさも琵琶湖とそん色のないトバ湖(面積625km2)への人為的影響は、琵琶湖の10分の1程度で、はるかに小さいのです。そのため自然(浄化)力が発揮されているため、前回のフィールド報告のように、今のところ富栄養化などの水質問題に大きな影響が出ていないのでしょう。宿では、酢豚風の味がすばらしいテラピア料理があり、ヒマラヤで痩せた体がもとに戻りそうな感じがしました。
パングルラン北部の広大なトバ湖を見ていると、水質的にもきれいな琵琶湖北湖やモンゴルのフブスグル湖をふと思い出していたりもしています。さて、インドネシア滞在の4日間をトバ湖で過ごし、インドネシア風の焼きそば(ミィー・ゴレン)にも慣れてきたところですが、今日はトバ湖を離れ、メダン経由でクアランプールへ戻り、そして明日はヤンゴン水郷地帯へ行けるのを楽しみにしているところです。

2012年秋ネパール調査」番外編(2) ミャンマー(ビルマ)

ヤンゴン周辺の水郷地帯


                                                                トンテーの焼き物工場

「ヤンゴンでの一日は、ヤンゴン川を対岸にでかけてトンテーという焼き物の町にでかけるのもおすすめです」と干場悟さんからは言われていたので、ヤンゴン到着翌日、早速行くことにした。ヤンゴン川の渡し場で切符を買っていると、トンテーの実家に行く日本語を話すイ・トさんが近づいてきて、彼が連れて行ってくれることになりました。彼は日本に7年ほどいて、王将や北の酒場などのチェーン店で働いていたという。泥のヤンゴン川をフェリーで渡ると、乗合タクシーでトンテーまで行き、彼の実家で一休み。すぐに焼き物屋を案内してくれました。焼き物は素焼のものがほとんどで、ヤンゴンの街角などに置かれている450cmほどの素焼の壺ですが、中には1mほどのものを二人がかりで作っていました。

                                        泥の河の運河に面した桟橋に積まれた焼き物

トンテーの北西には、ヤンゴン川から引いた運河があり、焼き物が運河に面した桟橋に積まれています。船でミャンマー各地へ運び出すのでしょう。もちろん、この運河の水も泥水です。透明度ゼロとおぼしき泥水にはホテイアオイが浮かび、人々が船をこいでいるのは、中国から東南アジア、インドなどの南アジアに共通する景観です。
ヒマラヤに発した南アジアの大河は、身を切るように冷たい源流の清流やグレーシャー・ミルクの流況が中下流域に来ると、泥水になります。これまで見た黄河も、揚子江も、ガンジス・インダス両河川もそのように変化していました。飛行機から見ただけですが、メコン河もそのようでした。地球環境的に考えると、人口増加今世紀後半の地球上でもっとも大きいのがこの南アジアなので、この泥水地帯は、淡水資源の重要課題を潜在的にかかえているところであるといえるでしょう。

                                                 南アジアの水循環図

南アジアのモンスーン地帯には雨期と乾期があり、ヒマラヤに発する南アジアの大河地域では、とくに乾期の水資源として氷河の解け水が重要ですが、貴重な水資源が温暖化で解け続けており、地球温暖化がこのまま続くと、ヒマラヤの6千メートル前後の氷河のほとんどは今世紀半ばにはなくなってしまう、と私は考えています。黄河流域では、毎年半年以上、水の流れがない「断流状態」になっていると言われていまが、今世紀後半のヒマラヤの氷河の縮小期にはその他の南アジアの大河も「断流状態」になる可能性を視野に入れておかねばならないでしょう。さらに今世紀後半には、温暖化で世界中の氷河が解けるとともに海水温上昇で、海水の水位が上昇します。従って、人口増加の著しい南アジアの大河河口部の大都市周辺では、海水が河川や地下水にも進入してきます。すると、淡水資源の枯渇化はさらに進み、人口増加の影響を受けた数億に達する環境難民が発生するのではないか、と危惧されるのです。南アジアの大河の源はヒマラヤですので、その水源である氷河の変動を見つめていくことは、単に上流のネパールなどの山国の問題であるばかりか、南アジアの大河の河口部や沿岸部の課題でもあるのです。

以上の課題を、翌日のみならず翌々日の帰りの日もヤンゴンのスレーパゴダやミャンマー民俗村を案内してくれたイ・トさんは十分理解・納得してくれたかは疑問ですが、「じゃー、どうすればいいのか」というので、「地球温暖化を止めなきゃ」と答えると、「それで、日本はどうする、の」とつっこまれました。つぎに会う時に、はたして彼の理解は深まってくれるであろうか。

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