2013年6月26日水曜日

大気汚染と視程

国際山岳博物館展示


マチャプチャリ研究(1) 大気汚染と視程































2013年6月2日日曜日

2013年6月1日土曜日

国際山岳博物館展示概要

Exhibition of the International Mountain Museum, Pokhara, Nepal


ネパール・ポカラの国際山岳博物館の展示概要






















2013年5月22日水曜日

なぜ、ネパールの大規模氷河湖は決壊しないのか


なぜ、ネパールの大規模氷河湖は決壊しないのか

ネパール中央部マナスル地域のツラギ氷河湖の水位低下現象とGLOFリスク低減機構



1. はじめに

この報告は氷河湖決壊洪水(GLOF)の可能性の評価とその対応についての考察である。対象とした氷河湖は、ネパール中央部のマナスル峰南西のツラギ氷河湖で、その規模は長さ3km、幅500m、ネパールでは大型の氷河湖のひとつである。ツラギ氷河湖はダナ・コーラ(川)に流出し、ネパール中央部のマルシャンディー河にそそぐ。マルシャンディー川中流部の峡谷には現河床に近い河岸にタール村、ダラパニ村やシャンジェ村などがあり、GLOFが発生すれば甚大な被害がでるものと危惧されている。そこで、ネパール中央部のマナスル周辺地域の氷河・湖環境変動に関する調査を、2012年秋(10月24日~11月5日)に行った。調査内容は、マルシャンディ川支流のダナ・コーラ上流のツラギ氷河・湖の環境変動である。、
氷河湖決壊洪水(GLOF)が危惧されているツラギ氷河湖のようなネパールでも有数の大規模氷河湖は、クンブ地域のイムジャ氷河湖やロールワリン地域のツオ・ロルパ氷河湖がある。ただ、ネパール・ヒマラヤではこれまで大規模氷河湖のGLOFは発生していないので、この報告は、なぜ大規模氷河湖はGLOFを発生しないのかという課題にヒントを与えるものである。ネパールでGLOFを発生しているのは、1977年のミンボー氷河湖、1985年のラグモチェ(ディグ)氷河湖、1998年のサバイ氷河湖、および2003、05,09年のガプチェ氷河湖で、いずれも長さ1km以内、堰きとめているモレーンは小規模なものものである。図はクンブ地域のアマダブラム峰の南面にあるミンボー谷(左上)の1977年のGLOF環境を示し、氷河湖が決壊(右上)し、ドゥドゥ・コシ(川)のラスワ水文観測所の水位が1mほど上昇したことを示している(右下)。氷河湖を堰きとめていたモレーンは化石氷体を含む、いわゆるIce –cored moraine(左中央)で、幅30mの末端モレーンが2か所で決壊していた(右上)。このGLOFによるミンボー谷の土砂がイムジャ川を堰きとめたので、パンボチェ村周辺には一時的に湖が出現した(左下)。

                                       クンブ地域ミンボー谷の1977年のGLOF

ツラギ氷河湖の現地調査に関しては、1996年のネパール水文気象局(DHM)と、2008年から2012年まで毎年1回行ったわれわれの調査がある。また、航空写真については、ネパール氷河学術調査隊(GEN)の1975年、および1992年の山田知充氏のものがあり、幸いなことに、ツラギ氷河湖地域は精度の良いグーグル画像が公開されているので、それらの各写真情報を現地の地形的特徴と対比し、かつてのツラギ氷河末端位置を特定するとともに、2008年以降毎年現地調査を行っているので、次のようなツラギ氷河・湖の1975年以来の変動が明らかになった。

                                 
                          1975年以降2012年までのツラギ氷河・湖の変動図

ツラギ氷河末端は1975年~1992年は31m、1992年~2005年は47m、2005年~2008年は68m、2008年~2009年は60mと加速的に後退速度を拡大したが、その後は末端位置の変動は現れていない。つまり、1975年から2009年までは末端部のカービングによって氷河は急速に後退(したがって、氷河湖は拡大)していた。2009年の調査時には、カービングで形成された氷塊が氷河湖末端部に集積し、カービング現象の活発さを示すとともに、新たなカービングで発生した小規模な津波を観察することができたが、津波の波高は30cm程度の小規模なものであった。この程度ではモレーンを浸食する営力とはなりえないが、前記のようなミンボー氷河湖、ラグモチェ氷河湖、サバイ氷河湖、およびガプチェ氷河湖のような小規模氷河湖で、上流部に急崖の地形のある場合は、上部からの雪崩や岩石崩壊が直接氷河湖に落下し、巨大津波を形成し、末端モレーンを破壊することによって、GLOFを形成するするものと考えられる。

            打ち寄せる波と引く波の周期は1分程度の津波(振幅プラス・マイナス30cm)

ところが、2010年以降2012年までは、ツラギ氷河の屈曲部付近で、末端変動は停止した状態になっており、カービング現象による氷塊も見られなくなっているので、末端部分が氷河湖底に座礁した状態になっているものと解釈できる。

2.水位低下現象

ツラギ氷河湖の水位低下現象に気がついたのは、湖岸沿いに歩いたGPSの軌跡ルートをグーグル画像に重ねて見た時だった。2009年11月8日のGPS軌跡ルートが、2005年11月5日の画像上ではほぼ湖岸から20~30mの湖中を平行に通っているので、2009年の水位は2005年よりも低くなったと考え、氷河関係者の集まりで話したところ、誤差の問題があるので、水位変化とは結びつかないのではないか、という指摘を受けたことがある。ところが、新しく公開された2011年12月30日のグーグル画像に上記の2009年のGPS軌跡ルートを載せてみると、軌跡ルートは2011年の湖岸沿いに通っているので、ツラギ氷河湖の水位は2005年から2009年にかけて低下した、と解釈できた。



    (上)2009年11月8日の軌跡ルートを2005年11月5日のグーグル画像に重ねた図
    (下)2009年11月8日の軌跡ルートを2011年12月30日のグーグル画像に重ねた図

それでは実際にどの程度水位低下しているかというと、高水位時代の汀線を示す植生のない湖岸部が湖面から2.5m上に連続的に分布していることから、最近の水位低下量は2.5m程度と見積もることができる。水位低下の原因としては、氷河湖の流出口部分がそれ以前の水位上昇時の水量によって侵食され、流出口の位置が低下したため、湖面水位が低下した可能性が高い。


 
(上)ツラギ氷河湖末端部の水位低下(左上写真はかつての水位計が干し上がっているのを示す)
(下)ツラギ氷河湖の流出口(2012.10.29)

このような水位低下現象は、ネパール水文気象局(通称DHM)が1996年に調査した時の氷河湖末端周辺の写真と2009年のものと比較しても明らかで、氷河湖末端部のグレーシャーミルクのP1部分が、水位低下によって、2009年には透明度の高い池P2に変化しているのである。


                           1996年のDHM隊と2009年の末端地域の変化

3.考察


3-1.GLOFの可能性と自律的対応機構

これまでのネパール・ヒマラヤの氷河湖決壊洪水(GLOF)の調査から、決壊した氷河湖はいずれも小規模なモレーンの層厚の薄いもので、氷河湖をせき止めている堆積物(モレーン)中の化石氷が溶けたりすれば、古くなったロックフィル・ダムのように構造が弱くなり、そこに雪崩・岩石崩壊による津波の影響が加われば、小規模な氷河のモレーン構造の脆弱性によって、末端モレーンの決壊の要因になり、GLOFを引き起こしたと考えられる。
一方、モレーン強度の高い大規模氷河湖の場合は、直下型の大規模地震でもない限り、モレーンは安定しているとともに、温暖化の進行による融雪・融氷水流入の増加がすすむなかで、結果として引き起こされる氷河湖の水位上昇に対して、(あたかも自律的に)氷河湖の流出口が水量増加で侵食され、湖面水位を低下させる現象がツラギ氷河湖で起こっていると解釈できたので、大規模氷河湖にはGLOFリスクへの(自律的な)対応機構があるのではないかと考えている。もし、この解釈が妥当ならば、ツラギ氷河湖自体が、GLOF災害の発生リスクを高める水位上昇への事前防止機能を発揮しているものといえるであろう。したがって、GLOF対策とはいえ、すでに行われてきている大規模土木工事は、各々の氷河湖の特性に対応したGLOFリスクへの(自律的な)対応機構を調査したうえで、再考すべきだと考える。
ツラギ氷河湖のGLOFリスクへの(自律的な)対応機構が働いていると解釈できることに加えて、末端部分のモレーンは層厚が100m以上と堅固な堆積物なので、末端部分を破壊する直下型の大地震でもないかぎり、GLOF発生の可能性は低いと解釈できる。このことは、クンブ地域のイムジャ氷河湖とも共通性があるので、住民に対して、いたずらにGLOFの恐怖心を煽ることは慎まねばならない、と考える。というのは、2009年春に調査したイムジャ氷河湖近くのディンボチェ村の住民代表が私たちのところに来て、「去年は氷河湖調査隊が7隊きた。調査隊は危険だとは言うが、何が、どのように危険なのかは言ってくれない。危険という言葉が独り歩きしているので、学校も発電所も病院も作ることができないで困っている。もう、調査隊はたくさんだ。」とこぼしたのを心に留めておきたい。

                        P29(ハルカ・バハドール・グルン)峰とツラギ氷河・湖(2012.10.28)

                                   ツラギ氷河湖末端の流出河川(2012.10.29)

大規模氷河湖の落ち口は初めから大きく切れていたのではないのであって、氷河からの流出口はエンド・モレーンの最上面よりも低い位置にあるということは、ここで述べたように、数mの「浸食作用を繰り返し、段階的にモレーン最上部から徐々に浸食が進んでいき、氷河湖の水位を低下させてきた、解釈できる。現在見るような流出口は何回かにわたって形成した溢流時期が複合した地形である。

                                クンブ地域ゴジュンバ氷河(1973)の右岸モレーン

また、サイド・モレーンを浸食してかつて流出したことを示す地形がドゥドゥ・コシ河上流のゴジュンバ氷河のゴキョウ付近などに認められる。かつてのゴキョウ付近のゴジュンバ氷河流出口は新たな流出口にとって代われらたため、化石的な地形となって残っている。しかしながら、ブータンのルナナ地域の大型氷河湖であるルゲ氷河湖の場合は、規模の大きなエンド・モレーンではなく、規模の小さな左岸サイド・モレーンの浸食作用が著しく進み、1994年のGLOFをひきおこしたのである。



                               (上)ルゲGLOF流出口 2002_Bhutan_C09B01S17
                               (下)ルゲGLOF流出口 2002_Bhutan_C09B01S18

参考文献

BAJRACHARYA Samjwal Ratna (2009) Glacial lake outburst floods risk reduction activities in Nepal. International Centre for Integrated Mountain Development (ICIMOD),
Asia-Pacific Symposium on new technologies for prediction and mitigation of sediment disasters.
Japan Society of Erosion Control Engineering (JSECE), 18-19 Nov 2009, Tokyo, Japan.

Bajracharya, S. R. and P. K. Mool 2009. Glaciers, glacial lakes and glacial lake outburst floods in the
Mount Everest region. Nepal. Annals of Glaciology, 50 (53) London, UK. 81 – 86.

Department of Hydrology and Meteorology, Ministry of Water Resouces in co-operation with Federal Institute for Geosciences and Natural Resources (BGR), Hannouver, Germany (1997) Tulagi Glacier Lake Study (Final Report). Kathmandu, Nepal. (not published)

Fujita, K., T. Kadota, B. Rana, R.B. Kayastha and Y. Ageta 2001. Shrinkage of Glacier AX010 in 11
Asia-Pacific Symposium on new technologies for prediction and mitigation of sediment disasters.
Japan Society of Erosion Control Engineering (JSECE), 18-19 Nov 2009, Tokyo, Japan.
Shorong region, Nepal Himalayas in the 1990s. Bull. Glaciol. Res., 18, 51–54.

Fushimi, H., K. Ikegami, K. Higuchi and K. Shankar (1985) Nepal case study: catastrophic floods. Techniques for prediction of runoff from glaciated areas, International Association of Hydrological Sciences  (IAHS), 149, 125-130.

Kadota, T., K. Seko, T. Aoki, S. Iwata and S. Yamaguchi 2000. Shrinkage of Khumbu Glacier, east
Nepal from 1978 to 1995’ IAHS Publication 264: 235-243.

Mool, P.K., S.R. Bajracharya and S.P. Joshi 2001. Inventory of glaciers, glacial lakes and glacial lake
outburst floods: monitoring and early warning systems in the Hindu Kush–Himalayan region: Nepal.
Kathmandu, Nepal, International Centre for Integrated Mountain Development (ICIMOD) with United
Nations Environment Programme/Regional Resource Centre for Asia and the Pacific.

Mool, P.K. 1995. Glacier lake outburst floods in Nepal. J. Nepal Geol. Soc., 11, Special Issue, 273–280.
Oerlemans, J. 1994. Quantifying global warming from the retreat of glaciers. Science, 264(5156), 243–
245.

Yamada, T. 2000. Glacier lake outburst floods in Nepal. Seppyo, J. Jpn. Soc. Snow Ice, 62(2), 137–
147. [In Japanese with English summary.]

Yamada, T. & O. Watanabe, Eds. 1998. Glacier lake and its outburst flood in the Nepal Himalaya.
Monographs of Data Center for Glacier Research. Tokyo.

Yamada, T. and C.K. Sharma 1993. Glacier lakes and outburst floods in the Nepal Himalaya. IAHS
Publ. 218 (Symposium at Kathmandu 1992 — Snow and Glacier Hydrology), 319–330.

2013年4月28日日曜日

氷河群の時空間構造


回想記
氷河群の時空間構造ー生態学的氷河学の視点からー


問題意識

1995年のポスト・モンスーン、ネパールはクンブ地域の氷河調査に参加し、かつて長期滞在したギャジョ氷河に17年ぶりに再会することができたのであるが、そこで、おもしろい発見をするとは思ってもいなかった。というのは、1970年代にはいわゆる典型的なカール氷河だったギャジョ氷河が、消耗しきって、雪渓化してしまっているのを見つけたからである。そもそも、氷河と雪渓間の相変化を、一生の内に体験できるものとは思ってもいなかったからである。



 クンブ地域の低位置氷河の全体的な縮小化・雪渓化がすすむなかで、融氷雪量増大のため氷河湖は拡大している。そこでは、間欠的な氷河湖洪水や泥流被害、また場合によっては雪崩災害なども多発する。このような水資源問題や自然災害ともむすびつくネパール・ヒマラヤの多様な氷河環境の将来像をどのように描いたらよいのか。(いわゆる、”より還元的な氷河科学”は、多様な氷河群をとらえきることができるのであろうか?そのために、はたして、氷河科学は有効な手法を提供できるのであろうか?)これらの問に対する回答がもしNoまたはDifficultならば、多様な氷河群をとらえるには、”より総合的な氷河学”が必要になるであろう。氷河科学のミクロ的な内側からの、いわゆるより狭い分野の専門的思考方法の、故にである。学問の常として、良くも悪くも、氷河「学」も氷河「科学」化しやすいようだ。ところが氷河学は、従来から決して、氷河科学とは呼ばれてこなかったことは、もって瞑すべきであろう。というのは、氷河学はよりマクロ的な外側からの全体的・総合的思考を基本に据えていたふしがあるからである。極論すれば、通常「科学」では局部しか問題にしないし、単純な部分へ還元することによる純粋状態を仮定しがちで、自然現象の多様で複雑な実態を反映しにくいきらいがあるのではないか。いわゆる「科学」がとり扱う局部的に真実と言われる現象が、必ずしも多様で複雑な野外現象の全体において真実とは限らないことにも注意する必要があろう。自然学と自然科学、環境学と環境科学の対比に見られるように、現実的には、従来の氷河学と氷河科学間の自律分散システム化が必要かもしれない(これは、人間生態学的な観点からも、です。氷河科学は知識でいけるかもしれぬが、氷河学はより知恵の働きが大きいのではなかろうか?)。そこで、希望的観測かもしれないが、よりマクロ的な外側からの思考を基本に据える従来の氷河学に、氷河群の概念をキーワードとし、かつ生態学的発想を取り入れた「生態学的氷河学」が、全体的な氷河現象を把握するために重要になるのではないかと考えている。そして、生態学的氷河学を歴史的に見れば、自然史が成立する可能性がある。



氷河群

”「氷河群」とは単一氷体としての「氷河」に対置される概念である。もし、同一の氷河形成にとって必要な地形ー気候条件をもつ場があるとすれば、そこで形成される氷河は、「共通の氷河特性をもつ一群の氷河」であるはずで、「氷河群」と定義する(ヒマラヤ山脈、特にネパール・ヒマラヤの氷河研究における諸問題{以下では青い本と呼ぶ}、1973、p18)。チベット型氷河群とネパール型氷河群とは、それぞれ「冷たい氷河の系列」と「暖かい氷河の系列」とでもいえる異なった系列に属し、このような「氷河系」を決定づける因子の1つは氷体の物性である(青い本、p20)”と、このように青い本の考え方には、氷河現象の見方として、(個々の)氷河ー(各地域の)氷河群ー(地球全体の)氷河系の基本構造が見てとれる。
 そもそも「群」の概念は、個体群や○○群落のように、生態学(社会学など)から発しているようだ。とすれば、個ー個体群ー群集ー生態系という個から地球全体をとらえる生態学的な基本構造からのアナロジーとして、生態学的氷河学の場合、(個々の)氷河ー(各地域の)氷河個体群ー(各地域の、例えばヒマラヤ)寒冷圏自然現象群集ー(地球全体の)自然現象系の基本構造で全地球的な氷河現象を他の自然現象との関連において、時間・空間的に再評価できるのではないか?その考えにたてば、上記の青い本の場合、生態学的な意味での群集の概念がなかったことになる。そこには、各地域の氷河現象と密接に結びつく、例えば、凍土などの寒冷地形・湖沼現象群やヒトさえも含む生物現象等などへの考察を欠いていたきらいがあるのである、と解釈できる。つまり、あまりにも氷河中心主義(氷河帝国主義?)ではないだろうか。氷河と関係をもつ多様な自然現象への配慮がないからである。生態学的氷河学の立場からは、自然全体が1つの有機的なシステムだから、氷河だけ切り放すことはできない。換言すれば、氷河のみではストーリーは決して完結しないのだ。氷河だけ切りとると、自然現象に血がながれ、かたわでいびつな自然になってしまう。そこで必要なのは、各地域の多様な自然現象と氷河との関係性、および全体的な自然現象における氷河の(空間的・時間的に観た)構造的・機能的変遷の(システム的)位置づけを明らかにすることである。このことはとりもなおさず、氷河現象からみた自然史を編むことにほかならない。

ネパール型氷河群

はたして、青い本の「ネパール型氷河群」は存在するのであろうか? その伝でいけば、クマウン型やガルワル・ブータン・シッキム・アッサム各型氷河群などもできてしまう恐れがなきとしない。青い本では、「氷河系」を決定づける因子の1つは氷体の物性で、アールマン(1948)などの氷体温度を基準とした極地氷河ー準極地氷河ー温暖氷河の考えが氷河群の概念の有効性を示唆している(同、p20)”と述べられているが、このようないわば物理的な「氷河科学」的手法は、はたして、多様性ある氷河現象を統一的に把握するのに有効なのであろうか?まさに、そこにこそ、「氷河科学」の落とし穴がありそうだ。そこで、Ecologyの観点もふくめた総合的な「生態学的」氷河学の必要性を提唱しているのであるが、”ヒマラヤ寒冷圏自然現象群集”と言った場合、みなさんは、その内容をイメージできるようになられたであろうか?



 より具体的なヒマラヤ寒冷圏自然現象群集のイメージとして、
①21世紀中ごろまでの小時間・小空間現象としては、氷河縮小・湖沼拡大による氷河湖洪水・各種地滑り災害の多発期をへて、水資源不足・不安定期をむかえる、と予測できる。1995年11月に発生した寒候期のサイクロンの進入による豪雪とそれによる雪崩災害は変動するヒマラヤ寒冷圏自然現象群を象徴するイベントであった可能性がある。②より大時間・大空間現象(気候変動・氷期論)としては、ヒマラヤの上昇につれて、冬雪に夏雪が加わるなかで、ヒマラヤの主体的自然現象(チベット的自然現象からの独立性、例えばヒマラヤ回廊など)の形成、また、ヒマラヤの氷河拡大期とチベットの大湖沼群時代から推察できる多降水期の湿地拡大によるメタン再生菌大増殖が温暖期のきっかけになる可能性がある。このプロセスが、報告されているように、氷期の風送鉄による海洋の植物プランクトンの増殖による大気からの炭酸ガスの取り込みで、寒冷期のきっかけになるプロセスとリンクし、氷期・寒氷期のシーソー・ゲームを形成する一因になる可能性を検討するのも、生態学的氷河学の課題となろう。
 このような生態学的氷河学の視点から、(個々の)氷河ー(各地域の)氷河個体群ー(各地域の)寒冷圏自然現象群集ー(地球全体の)自然現象系の基本構造からグローバルな自然現象を再評価する視点は、まさに自然史の構築と気を一にするものである。つまり、ヒマラヤ寒冷圏自然現象群集を把握するということは、とりもなおさずヒマラヤの自然史を構築することにほかならない。以上のことは、山岳地域のEco-hydrologyカトマンズ会議で報告したことであるが、是非とも、みなさまのお知恵を拝借したい。