イムジャ氷河湖に重機出現―歴史はジャンプするー
1) はじめに
1970年代のネパール・ヒマラヤの氷河調査でお世話になったハクパ・ギャルブさんが『Lowering of Imja glacier by Nepalese army(ネパール軍によるイムジャ氷河「湖の水位」低下)』の標題で、 2016年6月5日にその2日前に現地で撮られたイムジャ氷河湖で工事をする重機(ブルドーザー)の下記写真1をメールで知らせてくれた。イムジャ氷河湖は東ネパールのクンブ地域にあり、長さ1.5キロ、幅800mほどの大きな氷河湖である。その氷河湖の決壊洪水(GLOF;Glacier Lake Outburst Flood)を防ぐために人工の排水溝を作り、氷河湖の水位を低下させる工事だという。クンブ地域は車用の道路がないので、写真1のブルドーザーは分解して人が担いだか、または強力なヘリコプターで運んだかのようだ。ついに、クンブ地域の氷河湖にブルドーザーが出現し、ネパール軍のお出ましになったのか。
写真1 イムジャ氷河湖末端で排水溝の設置工事をするブルドーザー
ネパールでは、車道路がある中央部のカリガンダキ川や道路建設が進められているマルシャンディ川上流の氷河地域ならブルドーザーを車で運んで、氷河地域の工事をすることは可能だが、車道のない東部のクンブ地域の交通手段としては、ルクラまで飛行機で飛んで、そこから1週間ほど歩いて行かざるをえないドゥドコシ川上流のイムジャ氷河湖にまでブルドーザーが入り、人工的な大規模な工事をしている写真1を見て大いに驚かされたのである。というのは、クンブ地域の当時の人工的な大工事といえば、やはりハクパ・ギャルブさんが送ってくれていた写真2のように、シェルパの人達の登山技術を生かした、急峻なギャジョ氷河の谷からナムチェバザールなどへの水道管の設置工事(資料1)程度の規模と思っていたからである。しかしながら、写真2の急峻な岸壁に水道管を設置する光景を見ると、そのやり方そのものが1世紀前の黒部川などならともかく、現在の日本では思いもつかないような大変な工事であることは間違いない。
写真2 急峻なギャジョ谷で水道管の設置ルート(左)と工事をするシェルパの人達(右)
物を運ぶ輸送の歴史を考えると、人が担ぐ時代から始まり、鉄道や船そして車や飛行機の時代へと経てきた系統発生が認められるが、クンブ地域では道路がないため、車輸送の時代を飛びこえて、ルクラ飛行場などが早くから建設されてきた。そして今、車輸送によらずに、ブルドーザーが氷河湖にまで出現した。日本でなら系統発生的に、まず道路を造ってから車でブルドーザーを運び入れるところであろうが、クンブ地域では、車輸送の歴史を跳びこえて、ブルドーザーによる近代的な大工事の時代にジャンプしたのをみる思いである。
そこで、私は「なぜ、ネパールの大規模氷河湖は決壊しないのか」(資料2)を報告しているので、安全と思われる大規模な氷河湖であるイムジャ氷河湖で、はたして、貴重な自然景観を著しく改変する氷河湖のブルドーザーによる大規模工事は本当に必要なのだろうか。その背景を考えた。
資料1
2013年秋調査旅行余話(2)
ギャジョ水道とナムチェバザールの植林地
https://glacierworld.net/travel/nepal-travel/nepal2013/2736-2/
資料2
なぜ、ネパールの大規模氷河湖は決壊しないのか
https://glacierworld.net/regional-resarch/himalaya/glof/glof01/
2) クンブ地域などでの氷河湖決壊洪水の実態
イムジャ・コーラ上流のクンブ地域で氷河湖の決壊洪水(GLOF;写真3)を引き起こした1977年のミンボー(GLOF直後;写真4;資料3)、ボテ・コシの1985年のディグツォ(GLOF後;写真5)、およびヒンク・コーラの1999年のサボイ(GLOF前;写真6)の各氷河湖をせき止めている堆積物(モレーン)構造を私は調査した(資料4)。それらの各氷河湖はいずれも湖面積が1平方キロ以下と小規模で、氷河湖のモレーンの幅はいずれも数十メートルと狭いものであった。従って、モレーン中の化石氷が溶けると、古くなったロックフィル・ダムのように堆積物の強度が弱くなり、幅の狭いモレーンが決壊し、GLOFを引き起こしたと考えられた。しかしながら、イムジャ氷河湖のエンド(末端)モレーンの場合は、前述のGLOFを引き起こした規模の小さい各氷河湖とは異なり、幅が数百メートルに達しているので、モレーン中の化石氷が部分的に溶けたとしても十分に強度を保つことができると解釈できた。イムジャ氷河湖の化石氷(デッドアイス)について、竹中修平さんたちは「融解によってデッドアイスの表面が徐々に低下し、湖水位は最終的に氷河湖決壊洪水(GLOF)の危険のないレベルまで下がる可能性が高い」と報告(資料5)している。そこで、そのイムジャ氷河湖の末端モレーンでブルドーザーによる大規模工事が行われていることには疑問を感じたのである。
資料3
Fushimi, H. et. Al. (1985) Nepal Case Study: Catastrophic Floods, Techniques for Prediction of Runoff from Glacierized Areas, Intenational Association of Hydrological Sciences, 149, 125-130.
資料4
Glacier Lake Outburst Flood (GLOF)
https://glacierworld.net/regional-resarch/himalaya/glof/glof02/
資料5
竹中修平・薮田卓哉・福井弘道
ネパールクンブ地方イムジャ氷河湖堤体のデッドアイスー二次元比抵抗探査による分布の推定ー
雪氷,72巻1号(2010年1月),3-12.
写真3 クンブ地域のGLOF氷河分布 写真4 ミンボー谷のGLOF状況
写真5 ディグツォ氷河湖のGLOF状況 写真6 サボイ氷河湖のGLOF前の状況
イムジャ氷河湖(写真7と8)と同様に大規模な氷河湖なのが、ネパール中央部のマルシャンディ川上流のツラギ氷河である。ツラギ氷河湖はネパール中央部のマナスル峰南西にあり、その規模は長さ3km、幅500m、ネパールでは大型の氷河湖のひとつで、ダナ・コーラ(川)に流出し、ネパール中央部のマルシャンディー川にそそぐ。地形的に特徴的なのは、ツラギ氷河湖を堰きとめているモレーン末端部の氷河湖から河川への流出口部分が30mほど浸食されており(写真9)、その流量は末端モレーンのところにあるカルカの橋で測定したところ、毎秒5~6トンであった。このようなモレーン地形はクンブ地域の氷河変動との対比から 16 世紀に形成された(資料6)と解釈できることから、モレーンが形成されてから 600 年ほどの間に流出口の位置が流出水によって浸食されて 30 m 低下したとみなせる。従って、平均的には1年あたり 5 cm ほどの割合で、自然の巧みな流出口の浸食のプロセスで、氷河湖面の水位低下が長年にわたり継続している、と解釈できた。
資料6
2014年春ネパール調査(4) ツラギ
https://glacierworld.net/travel/nepal-travel/nepal2014/nepal2014_04tulagi/
写真7 1975年のイムジャ氷河湖 写真8 イムジャ氷河湖末端の流出口
つまり、ツラギ氷河の流出口の浸食による水位低下が進行すれば、氷河湖の面積は減少の一途をたどることになる。このことは、人間が手を加えなくても、氷河自体がGLOFリスクを少なくする氷河湖の水位低下現象をひきおこしてくれている、といえよう。同様な現象はイムジャ氷河やその西側にあるゴジュンバ氷河でも観察されているが、クンブ地域の西側のロールワリン地域にあるツォー・ロルパ氷河湖(写真10)では氷河湖の水位を低下させるための排水溝の土木工事が行われたのだが、ハクパ・ギャルブさんから送られてきた写真1を目にすると、はたして、イムジャ氷河湖でも進める必要性があるのだろうか、と思わざるをえない。まずもって、貴重なヒマラヤの自然を改変する大規模工事は大いに慎重であるべきだ。
写真9 ツラギ氷河の末端モレーンの流出口 写真10 ツォー・ロルパ氷河湖末端地形
従って、氷河湖上流の岸壁からの落石や雪崩が直接湖面を直撃するような地形がなく、大規模な末端モレーンがあるイムジャ氷河湖の場合は、直下型の巨大地震にでも見舞われない限り、GLOFが発生する可能性はないので、ブルドーザーによるイムジャ氷河湖の人工的な大規模工事は貴重な自然を破壊するだけで、その必要性はないと判断できる。もっとも、直下型の大規模地震が発生すれば、たとえ事前の大規模工事をしていたとしても役立たずになるので、その必要性はもともとない、といえる。
大規模な末端モレーンからの流出口の浸食地形はイムジャ氷河やツラギ氷河およびゴジュンバ氷河(写真11;資料7)などにもみられる一般的な地形的特徴であるが、世界最高峰のエベレスト峰から流下するクンブ氷河では、大規模な氷河湖がみられず、末端モレーンには氷河湖からの流出水による末端モレーンの浸食地形がみられない。厳冬期には、イムジャ氷河湖やツラギ氷河湖の末端モレーンからの溢流水は凍結して、流出水は見られなくなるが、クンブ氷河では末端のモレーン下部から湧出する豊富な流出水流(写真12)を認めることができる。クンブ氷河では他の大規模な氷河とは異なって、流出プロセスが溢流水ではなく、末端モレーン下部からの湧出水なので、クンブ氷河では末端モレーンの決壊による洪水災害が起こらない特徴が認められる。つまり、大規模な氷河であっても、クンブ氷河の場合は、ツラギ氷河やイムジャ氷河のような一般的なネパールの大氷河とは異なっていることにも留意する必要がある。
資料7
東ネパール・クンブ地域の調査-イムジャ氷河湖変動など-
https://glacierworld.net/travel/nepal-travel/nepal2013/nepal2013_01-khunb-imja/
写真11 ゴジュンバ氷河末端の流出口 写真12 クンブ氷河末端の湧出水流
3) GLOF対策は、大規模氷河湖ではなく、小規模な氷河湖に必要
東ネパール・クンブ地域でGLOFを起こしたミンボー(1977年)、ラグモチェ〈1985年〉、サボイ〈1999年〉各氷河湖はいずれも小規模な氷河湖であった。氷河湖をせき止めている幅の狭いモレーン中の化石氷が溶けると、古くなったロックフィル・ダムのように堆積物の構造が弱くなり、そこに雪崩・岩石崩壊による津波などの影響が加われば、小規模な氷河のモレーン構造の脆弱性によって、末端モレーンの決壊の要因になり、GLOFを引き起こしたと考えられた。一方、大規模なモレーンのイムジャやツラギ、ゴジュンバそしてツォー・ロルパ、それぞれの各氷河湖は、直下型の大規模地震でもない限り、末端モレーンの堆積構造が安定しているので、末端モレーンの崩壊によるGLOFは起こらないと考えられる。
温暖化の進行による融雪・融氷水流入の増加がすすむなかで、結果として引き起こされる氷河湖の水位上昇に対して、あたかも自律的に、氷河湖の流出口が侵食され、湖面水位を低下させるプロセスがツラギ氷河湖同様にイムジャ氷河湖などの大氷河湖で進んでいることが確認できた。つまり、大規模氷河湖にはGLOFリスクへの自律的な対応機構がそなわっている、と解釈できる。従って、GLOF対策とはいえ、すでに行われてきているツォー・ロルパ氷河湖のような大規模土木工事は、各々の氷河湖の特性に対応したGLOFリスクへの自律的な対応機構を調査したうえで、再考すべきである。さもなくば、ブルドーザーによる大規模な人工的な工事によって貴重なヒマラヤの氷河景観を痛めつける自然破壊を引き起こしかねないことが危惧される。結論として指摘できるのは、ネパール・ヒマラヤのGLOF対策として必要なのは、イムジャ氷河湖のような大規模な氷河湖ではなく、小規模な氷河湖である。その例をあげれば、上流に急な崖があるチャムラン峰周辺の小氷河湖(写真13)やアンナプルナⅡ峰南面のマディ川上流の小氷河湖(写真14;資料8と9)などであろう。
資料8
調査報告 セティ川洪水とマディ川氷河湖洪水
https://glacierworld.net/regional-resarch/himalaya/glof/glof03/
資料9
マディ川氷河湖洪水
https://glacierworld.net/regional-resarch/himalaya/glof/glof04/
写真13 チャムラン峰周辺の小氷河湖 写真14 アンナプルナⅡ峰南の雪崩涵養型氷河
4) 住民参加型で氷河湖の決壊洪水の理解に向けて
2009年4月下旬から5月上旬にかけて長野県環境トレッキング隊に同行し、氷河湖の決壊による洪水災害が懸念されているというイムジャ氷河湖へ私は7年ぶりに訪れた。イムジャ氷河湖近くのディンボチェ村の住民代表が私たちのところに来て、「去年は氷河湖調査隊が7隊きた。調査隊は危険だとは言うが、何が、どのように危険なのかは言ってくれない。危険という言葉が独り歩きしているので、学校も発電所も作ることができないで困っている。もう、調査隊はたくさんだ。今こそ、対策を考えてほしい」と、危機感を真剣に訴えるのだった(資料10)。また、人工衛星システムを使った日本のK大学のGLOF早期警戒システムの設置などは住民たちに余計に危機感をあおっているように思われた。そのような背景のもとに、ツォー・ロルパ氷河湖末端で排水溝工事が行われたことなども影響して、イムジャ氷河湖へのブルドーザー導入になったのではあるまいか、と想像した。
資料10
イムジャ氷河湖関連報告
https://glacierworld.net/regional-resarch/himalaya/glacier/imja-lake/
かつて私は滋賀県立大学の学生とともにネパール中央部のランタン・ヒマラヤを旅した時に、「急速な都市化(文明化)に苦しむカトマンズ的な人たちなどが、サーベル・タイガーのように定向進化的に滅亡の道をたどろうとも、いぜんとして自給的・リサイクル的な生活を営むヒマラヤ高地の山村の人たちは、将来ともども悠久なる生活の営みを続けていける可能性(実力)を秘めている、と考えたい。そう解釈するのは、はたして開発途上国の南側からみれば、楽観的すぎるであろうか、それとも先進国の北側からみれば、悲観的すぎるであろう か」と記したが、車輸送の系統発生を経ずにイムジャ氷河湖にブルドーザーが出現し、近代的な大工事の時代にジャンプしたことを知ると、どうやら車輸送のないクンブ地域の将来も永遠の楽園であるシャングリラではありえず、電話時代を飛び越えて携帯を使用しながら牛追いをする子供たちがいるヒマラヤ高地の山村の人たちの現在のソフト面やブルドーザーの侵入によって近代的大工事時代に突入したクンブの人達のハード面の楽観論を否定せざるをえなくなりそうだ。
ところが、危機感を訴えているクンブの住民たちは、実際にはイムジャ氷河湖をはじめ、GLOFを引き起こしたクンブ地域の各氷河湖を見ていない人が多く、自分で判断できないため、必要以上にこれまでの調査隊の「危険」情報に惑わされているようだった。そこで、住民と一緒に、イムジャ氷河湖と、これまでにGLOFを引き起こした氷河湖のモレーン構造の特徴を現地で見ながら、GLOFの実態や対策について対話をしていくことが、住民に安心感をもってもらうために必要だと考える。彼らの指摘する「対策」とは人工的な排水用の水路を建設するような単にハードでトップダウン的な大規模工事ではなく、住民の心のケアー対策を考えたソフトでボトムアップ的な住民参加型で氷河災害への理解を深めることが必要な段階にきている、と思われた。
写真15 雄大なツラギ氷河末端のモレーン 写真16 ハクパ・ギャルブさんへの返事に添えた写真
そこで、イムジャ氷河湖で工事をするブルドーザーの写真をメールで知らせてくれたハクパ・ギャルブさんへは、雄大で堅牢なツラギ氷河湖末端のモレーン(写真15)を思い浮かべながら、「Thank you for notorious photos of the Imja man-made canal, anyhow. I think it must be nothing but destroying the pristine nature of Imja and wasting important money that should be used for schools and hospitals. "Good Luck and Better Build Back for Nepal" to you.」と返事をし、写真16を添えたのであった。
5) 追記1
2)章で紹介した竹中修平さんからは「イムジャ氷河湖の決壊洪水」や4)章でふれた「K大学」に関する下記のメールを2009年10月21日に受け取りました。
記
きのう,日本に戻りました.ブータンでは,泥と岩と雪とヤクや馬のフンの上を約400km歩きました.
さて,帰国して,お送りいただいた資料を拝見しました.私は「K大」の調査に参加した一人ですが,地元の人たちが「必要以上にこれまでの調査隊の「危険」情報に惑わされている」というご指摘には全く賛成です.
ちなみに「雪氷」にK大の調査での結果をまとめて「イムジャは危なくないのではないか」という論文(資料4)を投稿中です.
6) 追記2
イムジャ氷河などのような幅の広いエンド・モレーンを持ちながらGLOFを引き起こした例として、ブータン北部のルナナ地域で1994年に発生したルゲ氷河湖の決壊洪水があるが、現地調査の結果、決壊箇所はエンド・モレーンそのものではなく、エンド・モレーンに隣接する幅の狭い左岸のサイド・モレーンであった(写真17)。やはり、強靭な末端モレーンはネパールの大氷河湖同様に壊れにくいことを示している。
写真17 ルゲ氷河湖左岸の決壊箇所 写真18 祈祷に来られたブータン女王と
資料11
2012年秋ネパール調査報告
最後に
https://glacierworld.net/travel/nepal-travel/2012nepal/resarch02dudukhosi/
7) 追記3
丸尾祐治さんからイムジャ氷河湖調査のメールが来ましたので、お伝えします。
RE: お知らせ
yumaruo@lilac.ocn.ne.jp
2024/06/06
伏見さん
いつも興味深いメールを配信頂きありがとうございます。
6月1日付けの「イムジャ氷河湖に重機出現」を見て、一昨年私も日本山岳会の120周年記念の企画プロジェクトの一つである「グレート・ヒマラヤ・トラバース」(GHT)の2回目に参加して、バルン谷からSherpani・col等を越えてイムジャ氷河に下り、当時の状況の写真を撮ってきたので添付します。
たまたま私は2008年にJICAの調査団で同氷河湖を訪れていたこともあり、’08と’22年の間で同氷河湖がどの程度変化しているかを見るのも、GHTに参加した一つの動機でもありました。日本山岳会の報告会で同氷河湖の変化を発表した際のPDFもご参考までに添付しました。’08年にJICAが調査団を派遣した意図は以下のようなものです。
’08年に洞爺湖サミットが開かれたのですが、この会議は環境サミットと呼ばれており気候変動の対策等を協議するのが主目的でした。JICA上層部はアジアでの気候変動に関する主な問題はなんだろうか、と議論した結果高山帯での氷河の後退―氷河湖の決壊ー海水面の上昇等ではないか、との結論に至ったようです。それで元低温研の山田知己さんに案内役を頼み、同氷河湖の現状を視察するために調査団を送ることにしました。しかし、目的の場所が5000メートルを超える高所であり、JICA担当者等はヒマラヤの経験がないため、メンバーに経験のある丸尾を加えろと、当時の部長が主張した事で私のところに話があり、担当ではない私が調査団に入った次第です。案の定、山田さんを含めて全員がイムジャ氷河湖の出口付近のテント場で高山病にかかってダウンしてしまい、元気であった私一人が周囲を回って調査をしたわけです。
ちなみに’22年のGHTでタムール川やアルン川の上流部を超えた際に、ネパール道路局が重機を導入してチベット国境にある中国側の町とタプレジュンーダーランービラトナガールとを繋ぐ自動車道路を建設していました。ところが、この自動車道の下流側では自動車道はタブレジュンのやや上流部までしか開通しておらず、高所で作業している日本製の重機をどうやって運んだのであろうとメンバー間で議論がありました。帰国後ネパールのメディアが発信しているネットで、ネパール軍の大型ヘリが東ネパールのサンクワサバから重機を運んでいるニュースがあり、納得した次第です。また、イムジャ氷河湖の湖水面の低下工事はUNDPの資金で実施されたことが現地の銘板に記されていました。
長々とメールしましたが、ご参考になれば幸いです。PDFを添付と書きましたが、容量がオーバーしているとのことで、後程送付いたします。
丸尾祐治
上記の丸尾さんへは下記の返信をしました。
記
丸尾大兄
久しぶりにメールをくださりありがとうございます。大いに参考になり感謝します。
さて、添付写真は完成したイムジャの排水溝だと思いますが、デザインはツォーロルパと同じで、これだと湖水位が固定されます。従って、もともとの自然の流出口のように、浸食による流出口低下で湖面水位も低下する自然プロセスの巧みさが生かされていないように思います。また、ご指摘のPDFですが、拝見したいと思いますので、ぜひお送りくださるようお願いします。
PS
大兄とは、木崎さんの指示だったと思いますが、天竜川の花崗岩調査をしたことを懐かしく思い出します。
8) 追記4
丸尾祐治さんからイムジャ氷河湖調査のメールが再び来ましたので、お伝えします。
RE: お知らせ
2024/06/08
伏見様
この1週間と次の週いろんな用事が立て込んでしまい、メールの送付が切れ切れで申し訳ありません。
本日も午後から日帰りで名古屋に行き、明日から4日間大学時代の仲間と岩手に旅行します。
2008年の報告会での結論は、周囲の懸垂氷河が落下しても氷河湖に落ちることはなさそう、また出口付近には化石氷が残っており、津波が起こっても防波堤のような役割を果たすのではないか。従って現状ではGLOFが発生する危険は小さい、というものです。2022年の山岳会での報告会でも同様な結論ですが、いずれ氷河湖が山襞近くまで後退して、バルンツェ側の懸垂氷河が残っており、出口付近の化石氷が融解してしまったら、Dig Tsoで発生したメカニズムのGLOFが起こる可能性もある。この本文は作成していません。
この後、2つのメールでPDFと写真を添付します。
丸尾祐治
上記の丸尾さんへは下記の返信をしました。
記
FUSHIMI Hiroji
2024/06/08
丸尾大兄ーーー伏見です
お忙しいところ、貴重な写真を送っていただき感謝します。
大兄指摘のPDFはPower-Point画像の事だったのです、ネ。
それはともかく、イムジャ氷河湖の特徴が良く分かる写真
で参考になります。今後とも、情報提供、お願いします。